2012年11月28日水曜日

遺伝性乳癌と局所再発

10回日本乳癌学会近畿地方会で遺伝性乳癌と手術後の局所再発に関する発表をしてきました。

 BRCA1BRCA2遺伝子のいずれかに病的変異が存在する場合,乳癌および卵巣癌の発症リスクが一般集団より高くなり,乳癌の生涯発症リスクは6574%,卵巣癌については,BRCA1遺伝子変異を持つ場合3946%,BRCA2遺伝子変異を持つ場合1220%とされている。
(乳癌診療ガイドラインより)

・乳房温存術後の局所再発率に関する報告。
      
        10年での同側乳房内再発リスク ・・・・・・遺伝性乳癌27% vs 散発性乳癌4%

Garcia-Etienne CA et al: Ann Surg Oncol2009 Dec;16(12):3380-7.Breast-conserving surgery in BRCA1/2 mutation carriers: are we approaching an answer?
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=Garcia-Etienne%20CA%20et%20al%3A%20Ann%20Surg%20Oncol2009%20Dec%3B16(12)%3A3380-7.Breast-conserving%20surgery%20in%20BRCA1%2F2%20mutation%20carriers%3A%20are%20we%20approaching%20an%20answer%3F

     10年での同側乳房内再発リスク: 11.5%
     化学療法で77%のリスク減少

Metcalfe K et al: JCO 2004 15; 22: 2328-35 Contrarateral breast cancer in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=Metcalfe%20K%20et%20al%3A%20JCO%202004%2015%3B%2022%3A%202328-35%20Contrarateral%20breast%20cancer%20in%20BRCA1%20and%20BRCA2%20mutation%20carriers

 
      乳房温存 vs 乳房切除 23.5% vs 5.5% (P<0.0001)
         乳房温存+化学療法 vs 乳房切除 11.9% vs 5.5% (p=0.08)
              生存率に差はなかった。 

Pierce et al: Breast Cancer Res Treat, 2010 june: 121: 389-398, Local Therapy in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers with operable breast cancer
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=Pierce%20et%20al%3A%20Breast%20Cancer%20Res%20Treat%2C%202010%20june%3A%20121%3A%20389-398%2C%20Local%20Therapy%20in%20BRCA1%20and%20BRCA2%20mutation%20carriers%20with%20operable%20breast%20cancer

 
NCCNガイドラインにおける乳房温存療法の禁忌

        絶対禁忌
            胸壁への放射線治療の既往がある。
     –      広範囲に悪性微細石灰化を認める。
     –      乳房の整容性が保てない。
     –      断端陽性。

       相対禁忌
     –      皮膚に関係する活動性の膠原病がある。
     –      腫瘍径>5cm
     –      遺伝性乳癌である、あるいは遺伝性乳癌がうたがわれる。

 

 

2012年11月27日火曜日

2012 乳がん看護実践セミナー

11月10日(土)午後からポートアイランド内の兵庫医療大学オクタホールにて
上記のセミナーが開催されました。

今回のセミナーでは『術後初期治療とアドヒアランス』 という大きなテーマがありました。
アドヒアランス・・初めて聞かれる方も多いかと思います。

【アドヒアランス】
患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること         
(日本薬学会より)

・がん患者にとって自己管理の目標は「再発しないこと」「生きること」
・再発患者にとっては治療の継続が生存の可能性を高める一つの手段

患者にとってアドヒアランスはよりよい生活を送るために不可欠であり、
私たち医療者は、患者のアドヒアランス向上につながるセルフケア支援を行う役割を担っています。

特に、乳癌領域では、治療が長期にわたりそして、乳癌のサブタイプにより1人1人の治療が異なる場合も多くあります。
私たちは患者に見合った治療戦略を考え、患者に分かりやすい説明や情報提供を行うこと そして 患者自身が納得した治療を行えるように支援していくことが必要であるということを再確認しました。

話はそれますが、10月20日には神戸新聞松方ホールで
ピンクリボンシンポジウム2012が開催されました。
そこでは、甲南病院の宮下先生、京都大学准教授の佐治先生が 乳癌検診の話や、乳癌の新しい治療薬について講演をされました。

一般市民、患者さんもこのような講演を聞いて、治療についてや新薬について勉強しているのだなと改めて驚きました。
私たちも 患者さんによい情報が提供できるように 日々勉強中です!

また、治療における副作用出現に対してはリスクを吟味してアドバイスが行えるよう、チームで関わっていく必要があると感じました。
セミナーでは当院がん専門薬剤師の北田徳昭さんが ミニレクチャーとパネリストとして講演してくださいました。
当院の化学療法に関しては 腫瘍内科医、専門の薬剤師、がん化学療法認定看護師 など専門分野のスタッフが揃っており、人的環境に恵まれていると思います。

また、当院では週1回、乳腺外科と外来化学療法センターでモーニングカンファレンスを行い化学療法中の患者の情報交換や、勉強会を行っています。
今後も乳腺外科の患者さんが 「ここで治療をうけてよかった!」と思える治療環境を提供できるように このブログのサブタイトルにもありますように~最高のチーム医療~をめざしていきたいなぁと思っています。

とはいえ、ブログを書いている当の本人は、只今育児休暇中で 乳腺外来から離れています。
復帰の際は みなさんのお力になれるよう休暇中はしっかり充電しておきます。



2012年11月13日火曜日

第10回兵庫乳癌薬物療法研究会


 ①相原智彦先生講演
「真のエンドポイントでエビデンスを洗い直す」
・PFSがOSのサロゲートになるかどうか? 大腸癌ではサロゲートになりうるが、乳癌では??
・臨床試験の結果の解釈について・・・・それぞれの立場(研究者、企業、患者、臨床医など)でプレゼンの内容が違うので、解釈に注意が必要。
・術前化学療法における、pCRの意味・・・・pCRは予後因子だが、pCR rateが高い治療が標準治療になりえるかどうかは別。FDAのaccelerated approval はただの仮免許。その後の、予後や副作用の結果が出て、初めて標準となりえるかどうか分かる。承認取り消しも十分あり得る。
・primary endpointのPFSよりsecondary endpointのOSの方が重要。

②渡辺亨先生講演
「乳癌診療2013年の方向性を考える」
・gene profileを用いた、個別化治療のお話。
・St. Gallen2013のQuestionのお話。(2012とあまり変わらなさそう・・・と)
 
余談・・・・
 BOLERO-2ではOSに差が出なかったらしい・・(SABCS2012で発表される?)
FNマネジメントについて
 まず乳癌化学療法でG-CSFは使わない。予防的抗菌薬も1コース目から使うことはしない。患者さんを真摯に診て、肌つやを見れば必要かどうか分かる。
— 場所: 生田神社会館

2012年11月1日木曜日

QALY


QALY

 今週の化学療法カンファレンスでは、QALYについて議論しました。
QALYとはQuality Adjusted Life Yearの略です。

「乳腺腫瘍学, 金原出版2012」には「生存年数に健康状態評価値で重み付けをした指標で、健康状態評価値は0が死亡、1が完全な健康と定義された尺度で表される。」と記載されています。

例えば、再発乳癌で抗癌剤治療を続けている患者さんがいるとします。抗癌剤が奏効して5年生存を達成しましたが、とても副作用が強くて健康状態評価値が0.4しかありませんでした。この場合、QALY5×0.42で、2QALYとなります。健康な人の2年と同じでしかないということです。

健康状態評価値の設定をどうするか、難しいところはあるかもしれませんが、医療経済の面からも非常に重要なアウトカム指標だと思います。

1QALY増加に対していくら払うのか?国内の調査では500~600万程度が平均的な支払意志額の閾値だそうです。また、英国のNICEでは1QALY増加のための増分費用が3万ポンドを超えるような薬剤は承認されないことも多いと。

これからの我々はEvidenceScienceを作り、それを理解し、それに基づいた医療を提供する責務があります。そして、例え臨床の最前線にあってもmacro的な視野のもとにcost effectivenessなど社会全体を考えた診療を行うべきだと思います。しかし、それは最低限のラインとしてすべきことであって、それを超えた患者さんのQuality of Lifeと本当のendpointは何かを追求した医療を行うことが、真のtailor-maid therapyであり、それができるチームになろうと皆で固く誓いあいました。