2012年12月8日土曜日

ホットフラッシュについて


ホットフラッシュに有効な薬について

ホットフラッシュはホルモン療法に伴う副作用、中でもタモキシフェンの副作用としては一番多い症状です。エストロゲンの減少によって自律神経が乱れ、温度調節中枢が適切に働かなくなり起こると考えられます。
自律神経失調症状の治療にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が有効ですが、タモキシフェンとSSRIは肝代謝薬物酵素CYP2D6を介し薬物相互作用があります。中でもパロキセチンはタモキシフェンとの併用により、乳癌による死亡リスクが上昇することが実証され、併用禁忌となっています。
一方SNRIはCYP系を介さない,もしくは影響が少ないため使いやすい薬剤と考えられ、海外ではVenlafaxineが、乳癌患者のホットフラッシュ治療に使用されています。ただ、残念ながらこの薬、日本ではまだ未承認です。

現在日本では2種類のSNRIが承認されています。トレドミン(ミルナシプラン)とサインバルタ(デュロキセチン)です。
トレドミンはVenlafaxine同様、肝代謝薬物酵素に対して誘導・阻害を認めません。前立腺癌のホットフラッシュに対して、トレドミンは有効との報告もあります。
一方サインバルタは弱いながらもCYP1A2とCYP2D6が関与します。タモキシフェンとの併用で考えるのならトレドミンの方が使いやすいと言えます。
SNRIはセロトニンへの作用に加えノルアドレナリンへの作用もあるので、やる気や気分を向上させる効果が期待できます。

使いやすいとは言え、緑内障、心臓病、てんかん、肝臓病、腎臓病などの人に慎重投与であることは留意すべき点です。また他の抗うつ剤、睡眠剤などとの併用にも気を配る必要があります。

併用薬による注意が必要な患者には、漢方薬の桂枝茯苓丸と加味逍遥散が使いやすいと考えます。体質による使い分けは以下の通り。

◎桂枝茯苓丸・・・理血法:血瘀(血液の循環停滞)を除去する
 桃仁、牡丹皮、赤芍、茯苓 、桂枝
 ・比較的体力のある人
 ・足が冷え、頭がのぼせ、肩こりや頭痛がある症例

◎加味逍遥散・・・理気法:気滞(機能の停滞、うっ積)を除去する
 柴胡 芍薬 蒼朮 当帰 茯苓 山梔子 牡丹皮 甘草 生姜 薄荷
 ・比較的体力の乏しい人
 ・のぼせ、突然体が熱くなる、ヒステリー、抑うつ、不眠や気分がふさぎ込む症例
 *甘草を含む漢方薬やグリチルリチンを含む薬との併用は注意!

補足ですが、中医学におけるヒステリーは、精神的ストレスで肝気がうっ滞し、肝での新陳代謝がスムーズに行われなくなり、大脳への酸素補給や血液循環が滞っておこる心身症状と考え、精神状態の問題とはとらえません。


<参考>
Daily Med  http://dailymed.nlm.nih.gov/dailymed/about.cfm
Europe PubMed Central  http://europepmc.org/
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 http://www.info.pmda.go.jp/
がんサポート情報センター http://www.gsic.jp/
「やさしい家庭中国漢方講座」上・中・下 家庭中国漢方普及会